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大阪地方裁判所 昭和44年(わ)75号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(無罪の理由)

本件公訴事実中過失による安全運転義務違反(道路交通法七〇条、一一九条一項九号、二項)の訴因の要旨は「被告人は、昭和四四年一月八日午前〇時三〇分ごろ、普通貨物自動車を運転し、東大阪市岩田町五丁目一九〇番二〇号先道路を時速約二〇キロメートルで南進中、運転開始前に飲んだ酒の酔いのため注意力が散漫となり、前方注視が困難となつたのに、前同一速度のまま漫然と進行した過失により、道路右側に駐車していた東野清(当時二七才)所有の普通乗用自動車に気付かなかつたため、自車前部を同車に衝突させ、同車を損壊し、約八七、七八〇円相当の損害を与えもつて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で車両を運転しなかつた」というのである。

よつて、証拠を検討すると、被告人の司法警察員に対する供述調書によれば、被告人は本件事故前日の七日午後七時ごろから午後九時ごろまでの間に、自宅で日本酒二合を飲み、その後判示自動車を運転して近鉄布施駅前附近の飲食店に赴き、翌八日午前〇時すぎごろまでの間に日本酒二、三合を飲んだうえ、同自動車を運転し、東大阪市岩田町五丁目一九番二〇号附近の道路に至つた同日午前〇時三五分ごろ、判示第二のとおり東野清保有の自動車に衝突し、訴因摘示の物損事故を起こしたのであるが、衝突するまで同自動車に気付いていなかつたことが認められ、その後判示のような経過をたどつたことからみても、右の物損事故は、道路交通法六五条、同法施行令二六条の二、同法一一七条の二、一号に該当するいわゆる酒酔い運転をしたことによるものであることが明らかであり、酒酔い運転と区別さるべき同法七〇条所定の安全運転義務違反の所為(例えば「手離し運転」「ジグザグ運転」等の行為)があつたものと認むべき証拠はない。なお、検察官は、前記訴因について、被告人はハンドル操作をあやまつた点において安全運転義務に違反している旨釈明しているが、右物損事故時被告人がどのようなハンドル操作をしたかは全証拠によつても不明である。

ところで、道路交通法は、道路における危険を招来する行為、その他交通の安全と円滑を阻害する行為を類型化してこれを禁止処罰する諸規定を置いているが、同法七〇条は、右のような他の諸規定とは異なり道路交通の安全を阻害し、他人に危害を及ぼすおそれのある行為のうち、類型化することの困難な車両等の運転者の行為を規律しようとするものであることは、その文理自体に徴し明らかである。したがつて、運転者の行為が、他の法条(禁止規定)に該当する場合にあつては、特段の事由のないかぎり安全運転義務違反の罪は成立しないものと解するのが相当である。本件訴因のように「酒の酔いのため前方注視が困難となつたのに前同一速度のまま漫然運転した過失により、道路右側に駐車していた東野清所有の普通乗用車に気付かなかつたため自車前部を同車に衝突させた」行為をもつて安全運転義務に違反するとすることは酒酔い運転行為を二重に評価することとなる。(大阪高等裁判所昭和三八年一〇月三日判決、高等裁判所刑事裁判例集一六巻七号五五〇頁参照)なお右物損事故の際、酒酔いのためあやまつて右側通行したことをもつて過失による安全運転義務違反にあたるとするのであれば、右側通行の過失犯は処罰されない(同法一七条三項、一一九条二号の二、二項参照)のに過失による安全運転義務違反として構成すれば、これを処罰できることとなり、明らかに不合理である。

以上のとおり、前記訴因中、証拠によつて認定できる酒酔い運転の行為については罪とならず、そのほかに安全運転義務違反の行為をしたと認むべき証拠がないので、結局前記訴因については犯罪の証明がないことに帰するので刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をする。(伊沢行夫)

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